2章 繭から生まれた……

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空穏はただの牛のふりを続ける塩竈と顔を見合わせ小さくかぶりを振った。 神獣塩竈には、物に触れた人の記憶を断片的に映し出す能力がある。昨夜その力をもって繭玉と繭自身に触れてみたが、音もなく真っ暗闇であった。 「そうだな。それでは、まゆ。さしあたり繭と呼ぶのはどうだろう」 なるだけ優しい口調で言ってやると、衝立の影が曖昧に頷く。 「では繭。施し物だが桃の実が手に入った。切ってやるから、食べなさい」 「ーーでも」 「余計な心配はやめて、とにかく今は食べなさい。桃源郷の文字にあるように桃は有難い天の恵みであるから」 きっと体もすぐに癒える。と続けて土間に降りた。
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