2章 繭から生まれた……

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まず見えるのは薄紙で拵えた二羽の折り鶴だ。男雛と女雛の一対、合わせ目の寸分違わぬ見事な出来栄えである。 鶴の傍に座っている繭はなにやら紙に書かれた文字を一心不乱に読んでいる。経文だ。 そういえば一昨日、まだ幼い患者が治療に連れて来られるのを見て心を痛めた繭のために、救世の祈りの般若心経二六二文字全てに平仮名を振ってやった。 だが村人らの識字率など無きに等しい現状の、まして人ならざる繭に分かるだろうかと内心思ったが、はたして繭は平仮名を読むことができたのである。 「ああして暇を見つけては幼子の健康を祈ってるんですよ。あんな子が悪人だなんて小生にはとても思えません」 「……」
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