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「でもそれでは、比丘尼さまがーー」
「ほほ、家に帰れば幾らでも替えがありますよ。さあ鏡を」
「でも」
「あなたにお着物も持ってきたのよ。私の古い小袖ですけどね、きっと似合うと思うの」
髪を切ったら着てちょうだいねーーと比丘尼が風呂敷包みを持ち上げると、繭はやっと笑顔になった。
散髪と着付けと二つながら終えてしまうと、よほど疲れたのだろう、繭は比丘尼の膝を借りて午睡を始めた。
「郷に残してきた娘によく似ているわ……。かわいそうに、自分が何者かも分からないなんて」
すうすうとよく眠る少女に慈しみの眼差しをそそぐ。
東雲色の地に三日月柄の小袖は、見立て通り繭の白い肌によく映えた。
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