1章 繭玉と怪異

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** 恐ろしい怪異が続いている。体の不調を訴えるものが後を絶たないから、ぜひとも私の村に居を構えてくだされ、村の者を救って下されと老比丘尼に懇願されたのがもう三月(みつき)前のことだ。 薬や祈祷を一切使わず指圧だけで人体を治す空穏の按摩技術を見込んでの願いであったが、旅の僧たる空穏がひと所に腰を据えるのは初めての事である。 無償で借りた空き家を庵と呼び、動ける病傷人は歩いて通わせ、動けぬ者のもとにはこうして出向いていく。 もっとも出張治療から帰る道すがら、こんな奇妙な拾い物をする日がこようとは夢にも思わなかったが。 「まったく、竹取物語や桃太郎ではないんですから。ただただバカでっかい蛹が湧いて出たらどうするんです。よしんば、羽化なんかしちゃったら」 塩竈は背中にのしかかる異物に怯えて全身を粟立たせた。羽虫がチキチキと横をかすめ飛んでいく。 空穏は塩竈のたわごとには答えず枝葉から滴り落ちる雨だれを払った。 暑くなった。長雨が過ぎた後の日射しは一際こたえる。この分だと濡れた体もすぐ乾くだろうと喜ぶ一方、いま治療を終えたばかりの患者の容態が気がかりでならない。
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