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「別にそうではないよ」
「ほならーー」
「だが私など、さして生きる価値のない人間だ。いるだけで大切な者を悲しませるのだ。そんな私が女を得ても、幸せになどしてやれまい」
繭が驚いたように顔を上げる。
「なぜそんなことを、空穏さま……」
「それそれ! そら肝心なところで空穏さんはご自分をないがしろにしちゃうんだから。何があったか知りませんせどね、良くないですよ、そういうの」
フンと息巻く塩竈の隣で、繭が切なさと戸惑いのないまぜになった視線を投げかける。その視線を避けるように、空穏は瞑目してまた鉢の水を干した。
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