1章 繭玉と怪異

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「怪異か……」 だがそんな言葉で片付けてしまう気は毛頭ない。不可解であろうが必ずどこかに原因はある筈だ。それを手繰り寄せる努力は惜しみたくなかった。 「ああ、比丘尼さんが言ってたやつですか? 怪異って何なんです」 「私も考えてはいるのだが……」 「分からないんだ」 「塩竈。矮小な己ひとりが見て感じる事ばかりがこの世の全てではないぞ。この世、そして大宇宙には未知の方が遥かに多い。いかに智を身につけようとも結局はみなごく一部の世界の理に過ぎぬ。何もかも知ろうなどと大それたことを望めばとても己一生では足りぬ。 菩薩でさえ、如来に昇格する為にまだ五六億七千万年分の修行を残す有り様なのだ。であれば、ほとんど無知なる己が全知全能の顔をして『これはこうだ』と決めつけるのは初めから愚かな行いではないか? これは虚しい事実のようだが、実はそうではない。 いくら考えても何も解らないというのはある意味気楽だ。どうあがいても解らぬものは解らぬのだから、何事もむやみに恐れる必要がなくなる」
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