1章 繭玉と怪異

8/20
前へ
/181ページ
次へ
とは、よく考えると単なる開き直りとも取れる仏教の基本理念を信じて、僧侶は平常心を保つのである。 しかし僧侶も生身の人間だ。 「それはいいんですけどね空穏さん。さっきからでっかいヒルが足の甲にへばりついてますよ」 「えっ、ギャアア!!」 「空ばっかり見て歩いてるからですよ。ドジですねぇ、黙っていれば美形なのになぁ残念だなぁ」 「うるさいな!」 「なぁーにが『何事もむやみに恐れることはない』ですか。現実はヒル一匹でこの体たらくのくせに」 「塩竈ァァ!」 いきおい錫杖(しゃくじょう)を上げれば塩竈がヒョイと逃げる。逃げる、追う、逃げるを繰り返せば、帰路は行く道よりもずっと早かった。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

316人が本棚に入れています
本棚に追加