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1章 繭玉と怪異
巨大な繭玉が湖に浮かんでいる。
丸々と肥えたお供の雄牛と並んで、生い繁る夏草の陰からその不可思議な光景を眺めたが、博識の聖たる空穏をもってしてもそれが何なのかを計り知ることができない。
空穏はもちろん、絹織物で栄える西陣を旅した過日には蚕が繭をかける過程を目にしている。
蚕は約五年で終齢を迎えるが、蛹化が近づくと一切食することをやめ、腹に残った餌までもひとつ残らず排泄する。さながら生きたまま祈りを捧げ衰滅していく即身仏のようにだ。
そうして白くなりゆく様は、十二で発心し十九で寺を飛び出して以来五年の歳月を行脚する空穏に無量の感激を与うるに足りた。
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