3章 あわ色の恋

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3章 あわ色の恋

以来、繭は患者の来る日中は頭巾を被ってやり過ごすようになった。だが夕べになると鏡を取って髪を梳き、また溜息をつく。 考えあぐねた末に空穏は比丘尼のつてでお歯黒の染料を手に入れる案を思いついた。 お歯黒の主成分は鉄漿水(かねみず)という茶褐色の液体である。酢酸に鉄屑を溶かし熟成させた物だけにかなりの悪臭がする。 これを櫛で丹念に髪へ塗り、五倍子粉(ふしこ)を上塗りする。五倍子とはヌルデの葉に昆虫が寄生してできた「虫こぶ」の粉である。 鉄漿水と五倍子粉を交互に髪へ塗ると、鉄漿水の鉄分が五倍子粉のタンニンと結合して黒変する。
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