冷たい土の下に

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鳴っている――携帯電話。 手に取った。非通知だった。 電子音を七回数え、耳に押し当てた。 嫌な声だ。毎日聞いたはずなのに、永遠に好きになどなれない。そんな声。 電話の向こうの男は名乗らない。それは、いつものことだ。だから俺は、気にも留めない。 「出てこいや。今すぐだ」 声の主。仙道曹也。 もしも仙道曹也から出てこいと言われたら、何があっても直ちに出向く。何があっても。女の股間に顔を突っ込んでいたとしても。 思わず、舌を打った。 「おい、ハル。おまえ今、舌を打ったか」 プラモデルを作っていた。シャーマン戦車。プラモデルが俺のささやかな悦びだ。今回は気合いを入れて精巧に仕上げるつもりだった。区切りの悪い所で中断したくない。つい、気持ちが態度に出た。 俺達の世界は薄情だ。たったそれだけのことが、寿命を縮めることになりかねない。 「気のせいすよ。舌なんか打ってないです。でも、そう聞こえたなら謝ります。すみませんでした」 間を置いて、仙道曹也の声が聞こえる。 「てめえ、あんまりふざけた真似してると、どうなるか分かってんだろうな」 「すいませんでした」 携帯電話を耳に押し当てたまま、深呼吸をした。 そうだ深呼吸だ。深呼吸をしろ。 「わかってんのか。殺すぞてめえ」 「本当にすいません」 「まあいいわ。例の場所で待ってるからよ。すぐ来いや」 電話が切れた。ツーツー鳴っている。携帯電話を、座布団に叩きつけた。 俺は立ち上がった。綿の半袖シャツを手に取って、羽織った。
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