冷たい土の下に

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安アパートのドアを締める。施錠した。 階段を降りてすぐの駐車場。白い軽ワンボックス車。俺のクルマ。薄っぺらなドアを開けた。ビニールシートに滑り込んだ。尻がひんやりする。 エンジンキーを捻った。 ラジオの音声が車内に響いた。 『八月二十九日早朝、通学のため自宅を出てから行方が分からなくなっている高校一年生前野葉月さん十五才の安否は、ちょうど一週間が経過した今も不明のままです。前野葉月さんが白いクルマに乗った男から連れ去られたとの目撃情報もあることから、前野葉月さんが何らかの事件に巻き込まれた可能性があると見て、警察は現場付近の聞き込みをすると共に、前野葉月さんの交遊関係などを詳しく調べています』 ラジオのアナウンサーの職業的な声。如何にも他人事だ。 市内の女子高生失踪事件。この事件は、ローカルニュースで毎日のように報道されている。家出も含めた行方不明事件なんて、全国で年間数万件は発生している。だからというわけでも無いが、俺は今回の行方不明事件など、気に止めてさえいない。どうでもいい。 だが、俺には人並外れた記憶力というものがある。ニュースで知った前野葉月の顔と名前は決して忘れない。 エンジンの安っぽい振動がぶるぶると運転席に伝わってくる。軽ワンボックスを車道に出した。ゆっくりと前に進めた。もっとも、速く走らせようにも、くたびれたエンジンは直ぐに悲鳴を上げてしまう。俺はクルマに合わせた速度で、目的地を目指した。
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