冷たい土の下に

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アパートから十五分の距離。繁華街の外れのそのまた隅っこ。そんな場末のスナック「ミズキ」の裏に、白いセダンが停めてある。俺は、軽ワンボックスをその隣に滑り込ませた。 白いセダン。トヨタ・アバロン。仙道曹也の下駄代わり。それが頭から突っ込んだ状態で、後ろ向きに酷く雑に停めてある。 俺はバックで駐車する。車道にフロントを向けて。いつもの習慣だ。 頭から突っ込んで停めたりしたら、すぐにはクルマが出せない。俺にはそんな怖い真似が出来ない。 俺は、他人を信じない。ましてや俺と同じ世界に生きる者など、誰一人として信用できない。 兄弟分だ親分子分だともっともらしく言ったりするが、そんなものはカネとカネで繋がった薄っぺらな虚しい関係でしかない。いつ殺されて終わるか知れない殺伐とした世界。 それでも俺は、自分から裏切ったりはしない。俺にはこの世界しか無いからだ。死の制裁を受ける覚悟も勇気も俺には無かった。血の盃を交わした兄弟分を裏切ったりなどしたら、行き着く先は暗くて冷たい土の下だ。身体は蛆虫のエサとなり、やがて土と同化して消えて無くなる。後に残るは白骨のみ。 俺は、組や兄貴分を決して裏切らない。 だが、組や仙道は違う。 退っ引きならない「何か」が起きれば、躊躇なく俺を切り捨てるだろう。俺が生きているヤクザの世界とは、そういうものだった。
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