冷たい土の下に

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店の奥。トイレの扉が開いた。現れたのは、仙道曹也。左右の手を振って水滴を飛ばしている。 Tシャツ。意味不明の英字がずらりと並んでいる。訳してみた。 【奴らを見つけて殺せ】 正気とは思えない狂ったデザイン。 ヴィンテージのジーパン。今どき腰穿き。本人はヤクザに見えないヤクザを狙ってそうしているのだろう。だが、誰がどう見ても仙道曹也はヤクザそのものだ。 近寄ってくる。その鋭い視線。鳥肌がたった。 「ハル、遅えぞ。俺が来いっつったらすぐ来いや。なめんじゃねえぞ。分かってんのか」 時計を見た。唐突に呼び出されてから十八分しか経っていない。言いがかりも甚だしい。だが、逆らうのも面倒だった。そんな無駄なエネルギーもない。 「ええ。分かってます。遅くなってどうもすいませんでした」 仙道曹也が、俺の隣に腰かけた。煙草。口にくわえている。これ見よがしな外国産。 俺はジーパンのポケットからジッポーを素早く取り出した。蓋を開けて火を灯した。それを仙道曹也に差しのべる。カウンターの向こうの山崎も、ガスライターの火を差し出していた。 仙道曹也は、俺の火を選んだ。煙草が近づいた。煙を吐き出しながら、仙道が言う。 「やっぱオイルの火に限るわ。ガスは煙草が不味くなるってあれほど言ってんだろうが。もう忘れたのか。山崎、てめえ堅気にするぞ」 煙りに包まれながら、仙道曹也が山崎を睨んでいる。 「すいません。気を付けます」 山崎が頭を下げている。 やがて仙道曹也は、俺に向き直った。
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