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すると、男は困ったように眉を垂れて、私をみつめて言った。
「でしたらなぜ、あの夜、貴女は泣いていたのですか?」
私は咄嗟に目の前の男の横っ面を引っ叩いていた。
あの夜、夜会を抜け出して公園で泣いていたところを見られていた。こんな、どこの馬の骨かもわからない筋肉ダルマに泣き顔を見られていたなんて、一生の汚点だ。
冷静になって考えれば、普段の私にあるまじき行動だった。淑女が紳士に手をあげるなんて、とんでもない失態だった。
けれど、この際構わないだろう。いい加減、私はこの男が鬱陶しいと思っていたし。
これでこの男が私に幻滅して、二度と目の前に現れなければ結果オーライだ。
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