213人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、また翌日、懲りもせずに彼はやってきた。
曰く、「突然婚約を破棄されて、腹が立たないのですか」と。
私はうんざりしながら、けれどもそれを表情には出さないように、努めて冷静に彼に話して聞かせた。
「振られて当然なんです。だってわたくしは、フランシス様のことをこれっぽっちも好きじゃなかった。容姿も身分も完璧な『彼女の自慢の恋人』を横取りしてやりたかっただけなんですもの。ですからあの夜泣いていたのも、婚約を破棄されたことで傷ついたからではないのです。何をしても彼女に及ばない愚かな自分に嫌気がさしたの」
彼は黙って私の話を聞いていた。穏やかな眼差しで、ただじっと私の顔をみつめていた。
「貴方はとても優しい方ですわ。わたくしなんかよりもずっと、貴方にふさわしい方がいらっしゃるはずです」
愛想の良い笑顔を作ってそう告げると、私は玄関の扉を閉めた。
最初のコメントを投稿しよう!