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薄い硝子が割れた様な高い音と共に噛みついた筈の黒竜の顎が弾かれたように開いた。物理攻撃の反射。それが発動した歩兵の装甲は傷一つ付かず黒竜を下がらせる。そして、噛みつかれた歩兵は前進して槍を突く。
突風を巻き起こし一瞬にして側に近付き攻撃する歩兵達から距離を取った黒竜は、その思わぬ反撃に様子を伺う。しかし、いつの間にか黒竜の背後に回っていた3人の歩兵が槍を突き出し黒竜を攻撃する。
一瞬驚く様に鳴き声を上げた黒竜は直ぐに尾を振りなぎ払おうとするが、その強靭で鞭のような尾は歩兵に当たる寸前で再び硝子が割れる様な音と共に弾かれ黒竜の尾の鱗が1枚宙に舞った。
物理攻撃が効かないと判断したのか、黒竜は首を左右に振りながら囲まれ周りに槍をかざす歩兵達に警戒しつつ威嚇するように翼を広げるが、歩兵達は無言で黒竜へと近付きその包囲の輪を縮めていった。
迫る魔導重装甲歩兵隊。黒竜はそれを見ながら飛び立とうともせず鋭く尖った牙の生えた口を小刻みに開け閉めする。すると、1人の歩兵が突然左右に頭を振ると黒竜に向けていた槍を震わせ始めた。
その歩兵に起きたのは耳元で羽虫が飛ぶ微かな音が次第に数が増えていく現象。それが数秒で歩兵の精神を破壊してしまう。
震えた槍は地面に落ち、動かなくなった歩兵。そして、黒竜は絶えず口を小刻みに動かすと、その現象は2人、3人と数を増やし歩兵の動きを止めた。
火炎や樹木といった属性による攻撃は無効になり、物理攻撃は反射されるとわかった途端、黒竜は魔法とは異なる幻影を見聞きさせる呪術を使った。
歩兵7人全員の動きが止まった事を確認する事もなく、黒竜は雄叫びを上げる。そして、空間が歪み光の輪が現れると黒竜はゆっくりとその輪に身をくぐらせその場から立ち去った。
立ち尽くした歩兵達はその身に付ける重装甲の中で、口から泡を吐き、白目を向き息を止めていた。
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