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鎖は瞬時に黒竜を拘束しその身を強く締め付けていく。黒竜は鳴き声を上げて精霊召喚士を睨むが、彼女は落ち着いて片手を差し出し何かを呟く。
封印出来ぬなら従えてしまえば良いと考えた精霊召喚士の行動は、使役し召喚するための儀式だった。とは言え、その方法は単純ではなく、術者が使役させる者以上の力を持っていなければ成立しない儀式であった。
百戦錬磨の英雄も、数多の魔法を扱う魔導士も、竜同等の力を持つ竜喰いですら敵わなかった相手に、その華奢な精霊召喚士が黒竜以上の力を持っているとは思えない。しかし、彼女は黒竜を捉え未だ儀式を止めることなく言葉を発し続けた。
黒竜の鳴き声と鎖が擦れる音が響く。黒竜は体を震わせ鎖を外そうと試みるがそれも叶わず、精霊召喚士に炎を吐く。だが、それも見えぬ壁に塞がれて炎は渦を巻いて空に消えた。
何も出来ぬと悟った黒竜は遂に大人しくなると未だ片手を差し出し呟く精霊召喚士を見つめる。すると彼女の差し出した腕はいつしか震えだし呟く言葉は途切れとぎれとなっていく。
鎖の力が弱まるのを感じつつ、黒竜は彼女をただ落ち着いて見つめる。そして、鎖から全く力を感じなくなったと同時に思い切り翼を広げると、鎖を引きちぎり雄叫びを上げた。
その時、黒竜が攻撃を開始しようとする前に、精霊召喚士は突然口から血を吐くと、膝から崩れ落ち地面に手を着いた。
使役させる為の儀式は失敗するとその者の身に全てが返ってくる危険な儀式。黒竜の力は絶大であり、例え精霊に認められた人間であっても従える事は不可能だった。
肩を震わせ青ざめた顔を黒竜へ向けた精霊召喚士に、黒竜は躊躇無く彼女を丸呑みにし、歪む空間が作り出した光の輪をくぐりその身を消した。
四大精霊は分身であり、黒竜に消されたのは精霊達の力の一部だったが、黒竜の力は本体の精霊達にまで及ぶ恐ろしい力だった。地上に影響が及ぶ程では無かったにしろその戦いの影響により、以前四大精霊達が封印した扉にひびが入っていた。
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