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魔物は人間より優れた種族だと自認しており、負けたからと他の魔物に泣きつけば自分の弱さを吹聴するのと同じだ。そのおかげで、同時に複数の魔物と戦う状況はほぼなかった。
その滅多にないはずの状況で、しっかり全ての魔物を封じたルリアージェという規格外もいるが。
頭上から降り注いでいた雨は止んでも、木々の葉から滴る粒はしばらく続く。
「ぅひゃ……っ」
首筋に落ちた雨粒に、規格外魔術師ルリアージェが悲鳴を上げる。
冷たくて驚いた姿は可愛いが、整った見た目に反した微妙な声にジルが吹き出した。大笑いする青年の頭をひとつ叩き、まだ笑い続ける様子に唇を尖らせる。
「……ごめん、謝るから、ね?」
許して欲しいと懇願しながら、拗ねたルリアージェの後ろから抱きしめる。そのまま銀髪をすこし指で梳いて、首筋に唇を押し当てた。
木漏れ日が差し込んだ森の中で、美女を抱きしめる王子様―――
御伽話に出てきそうな風景は「うっ」という呻きで崩れた。頭ひとつ高いジルの腹部に、ルリアージェの肘鉄が食い込んでいる。
手加減なしの本気だろう。かなりえぐい角度だった。
「…ひどっ」
「酷くない」
蹲ったジルの抗議を一言で黙らせた。睨み付けるルリアージェの顔は真っ赤で、男女の機微に疎い彼女にしては上出来の反応だ。
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