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彼女の左から吹き出す炎、右から凍てつく氷。
足元で転移を阻止し、正面に立つ青年の後ろの壁にも魔法陣がひとつ刻まれていた。まだ天井の魔法陣は作動していない。
彼自身は己を守る魔法円の中で笑う。
それはもう愉しそうに、嬉しそうに、残酷な色を浮かべて長い黒髪の先をくるくると指先で回した。
もう、逃げ場はない。
相反する高位魔術を同時に操りながら、さらに魔力を高めて指差した天井はぼんやりと光を放つ。
大量の虫を呼び出した魔法陣から、地へ落ちる黒い塊はもぞもぞと女王へ迫った。ぎちぎち顎を鳴らす蟻に似た虫たちは、一心不乱に女の元へ進む。
互いを踏み台にして、魔力を持つ獲物を食らうために。
「っひ……」
ぞっとする光景、最後にジルは彼女の後ろにある壁を指差す。
「死ね」
短い言葉が向けられる。ジルの彼女に対する返礼だった。
背を振り向く直前、彼女の胸を大きな針が突き刺す。口から赤い血が零れ出た。
豊かな胸を貫いた針は杭と呼べる大きさで、白いドレスの中央から赤く染めなおす。息が苦しくなり吸い込んだ途端、大量の血が顔を汚した。
日に焼けた肌を伝い、肉感的で豊満な身体は力を失う。
私は貴方が欲しかった。
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