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第4話 誤解と思い込みの舞台
「……見られている」
「アジェが美人だからでしょ♪」
隣で浮かれるバカは、自分も注目を集める一員になっている自覚がないようだ。にこにこと笑顔を振りまく美形に女性陣は熱い眼差しを送り、同時に隣のアジェに射殺さんばかりの鋭い視線を向ける。
針の筵という言葉が脳裏を過ぎった。
ああ…強い嫉妬を向けられると、肌は痛みを覚えるのだな。何かが突き刺さるような感覚に、つい現実逃避しかけたアジェだが、腰に回されたジルの手から逃れられずに足を進めた。
ぐらぐら揺れる足元の不安定さに、ルリアージェの表情が強張る。
「歩きづらい?」
こっそり耳元でささやく声に頷いた。
低めの声は耳元で囁かれると、擽ったい。首を竦めて見上げると、満面の笑みの青年がするりと腰を撫でた。その手を叩き落とそうと伸ばすが、先に足がふわっと楽になったことに気づく。
小首を傾げるルリアージェへ「ちょっとズルしちゃえばいいさ」とジルが笑った。
足元を見れば、きちんとヒールの靴は履いている。しかし普段の底が平らな靴と変わらないくらい歩きやすいのだ。
まるで足元に地面の反発がないような、ふわふわとした不思議な心地だった。
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