それでも君を愛さずにはいられなかった

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 次の週。俺は、スーツケース片手に家を出た。ノリコからの連絡はない。それでいい。俺は過去だ。もう俺を探さなくていい。  会社も退職した。これが起こると転職しなければならないのが、さよならを言う次にツライところだ。新しい世界で、新しい職を探さねば。俺は、今一度、家々や道路を振り返って、俺の世界にさよならをする。新しい世界にわくわくしていないといったらウソになる。けれど、新しい世界に行けるのは、この世界があったからだ。最大の敬意をこめて。俺は前を向いて歩き出す。  俺が(ノリコを)愛していた世界。  俺はもう(ノリコを好きだった)この世界にいることはできない。  明日には俺の中から消える(ノリコと過ごした)この世界を胸に、  俺は新しく(誰かを好きになる)世界を探そう。  駅のゴミ箱にポケットから出した錠剤を捨てた。睡眠薬は処方された日にちを超えて使わないことにしている。  別れにドラマはつきものだ。今回はどうだったろうか。俺の愛していた人は納得してくれたろうか。俺のさよならの理由を。  頬杖をついて見ていた景色が動きだした。俺の乗り込んだ電車は次の駅に向けて出発したようだ。
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