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「さっきも聞いたけどさー、それなんのSF? そんな映画あったっけ?」
映画の話をしているのではない。俺の話をしているのだ。
俺はため息をもらす。
たしかに、にわかには信じがたい話ではあると思うが、信じてもらわないと前には進めない。
「なに? あんた本気で言ってるの? 病院行った方がいいんじゃない?」
俺の熱いため息にノリコは違う心配をし始めたようだ。俺のおでこに手を当てて、熱はないな、などとやっている。そのことを心配するのなら、俺の目の前の水がないことに気づいてほしい。俺の喉はもう悲鳴をあげている。
「熱はない。俺は本気だ」
額の手を振り払うとあきらかにノリコがむっとした表情をした。自分の側の並々と水が残っているコップをつかむ。ノリコは癇癪もよく起こす。俺にかける気だろうか。かけてくれてもいいが、信じてもらうしかない。信じてもらうにはどうすればよいかと考えていると、予想に反してノリコはコップの中身をぐっと飲み干した。
「なによ。この世界にいたらダメなわけ?」
どうやら、とりあえずは話を合わせてみることにしてくれたようだ。信じてないけどね、と目線で釘を刺される。
信じてもらうさ。そうしないと――。
「壊れる」
「は?」
「この世界にいたままでは、俺は壊れる」
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