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俺はノリコと強く目を合わせた。壊れるということがどういうことかよくわからないのだろう。当惑しているようだ。けれど、壊れる感覚を一度でも覚えれば、この状態がすでに生きた心地がしないことをわかってもらえるはずだ。俺の精神が内側から食い破られるような感覚で毎日がブレていくことに、俺はこれまで一度も耐えられたことがない。永遠と思考が定まらず、最後にはコーヒーカップに振り回されているかのように頭と視界がぐるぐると止まらなくなるのだ。その感覚は俺を蝕み、やがて俺は水も喉を通らなくなる。眠りについても回り続ける今日を今日として生きていけずにズレていく世界で、俺は少しずつ正気を失っていく。
切々と訴える俺に、ノリコの顔が曇っていく。伝わっただろうか。俺はノリコの両手を握りしめる。怖い。俺は俺が狂ってしまうことが恐ろしい。
「頼むから。信じてくれ! もう、この世界にどれだけいられるか俺にもわからない。明日にでも俺は狂ってしまうかもしれないんだ!」
俺の切実な訴えにノリコの瞳の色が少しずつ変わっていく。
「本当はもっとずっとノリコと一緒にいたかった。でも、ダメなんだ。俺は来週にでもこの世界から出る」
「出て、どうするの?」
「歩き続けるさ」
今の世界の終わりから、次の世界を見つけるまで、俺は歩き続けるしかない。俺の曜日がスキップしない世界を。
「どこで見つかるのかは俺もわからない。ふと、気づくんだ。ここが俺の新しい世界だって」
「ずっとこんな想いをしてきたの?」
ノリコの優しい声に、俺は目を瞑って頷いた。ぬるま湯のような優しさが、俺の心にしみていく。俺はこの優しさに別れを告げないといけない。
「ノリコにはツライ想いをさせるが、すまない。こんな時が来るのはわかっていた。けれど、ノリコを愛している自分を抑えられなかったんだ!」
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