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「きみちゃん、見て。」 海から上がり、持参したタオルで髪を拭いていると、蒼太くんに呼ばれた。目を向けると、笑顔の蒼太くんの向こうには、水平線の向こうに沈む直前の、最後の輝きを放つ夕日があった。 「綺麗...。」 海に潜る前、荷物を置きにここに来た時には、こんなに綺麗な景色が見えるなんて、思いもしなかったのに。 「この景色も、きみちゃんに見せたかったんだ。」 気付いたら、蒼太くんがすぐ隣にいた。少し動けば、肩が触れそうなくらいの距離。 ここは、人の多い浜辺から遠くはないのに、岩場の陰に隠れていて、独立した、彼の秘密の場所だと言っていた。私たち以外は、誰も、いない。 「きみちゃん。」 彼の声のトーンが、少し、変わった。 彼の横に置きっ放しだった自分の手に、そっと手を重ねられて、鼓動が速くなる。彼はとても真剣な顔で、私を見ている。 【『俺のお気に入りの場所に案内する』とか言って、人気の少ない岩場の陰とかに連れ込まれたら、ひん剥かれるかもしれないわよ。】 最悪のタイミングで、昨日のくららの言葉を思い出してしまった。奇しくも、状況はほぼ合致している。 でも、ナンパ男に絡まれた時みたいに嫌だとか、昨日海で迷った時みたいに恐いと思わないのは、なんでだろう。 「あの、俺、今日、きみちゃんと一緒に泳げて、すごく楽しかった。また、一緒に泳ぎたいし、きみちゃんと、一緒に、いたいなって、思う。だから、これから、俺と...」 彼の顔は、沈もうとしている夕日に照らされて、茹で蛸みたいに真っ赤なのが、よくわかる。 「...きみちゃんがよかったら、俺と付き合ってほしい...。」 真っ赤になった彼は、そう言って、私の手と重ねていない方の手で、顔を覆ってしまった。 「...うん。私も、蒼太くんと一緒にいたい。」 そう言うと、彼はバッと私の方を向いた。彼の顔はまだ赤かったけれど、とても嬉しそうに笑っていた。日はほとんど沈んで、彼の顔を照らしはしないけど、彼の瞳はやっぱり輝いて見える。 「ありがとう、きみちゃん。」 そう言った彼に、私はふわっと抱き締められた。日の光に照らされなくても輝いている彼は、とても温かかった。
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