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結果から言うと、私はそれほど浜辺から離れてはいなかった。時間もそんなに経っていなかった。
「あ、あの。本当にありがとうございます。」
浜辺まで送ってくれた彼に、お礼を言う。海から上がった彼は、ちょうどゴーグルを外しているところだった。
「どういたしまして。でも、誰かと一緒に来たんですよね?その人のところまで...。」
......。
ゴーグルを外した彼は、やっぱり、綺麗な瞳をしていた。太陽の光に照らされなくたって、キラキラと輝く瞳。健康的な小麦色の肌と、清潔な白い歯を見せて笑うその顔に、私は見惚れてしまった。
「どうしました?」
ずっと見ていると、彼が怪訝そうな顔をした。
「あ、すみません。あの、ありがとうございます。友達と来たんですけど、隅の方にいるので、ここで大丈夫です。」
ありがとうございます、ともう一度頭を下げて立ち去ろうとする。と、また、手首を、掴まれた。
振り向くと、今度は真剣な顔をした彼がいた。真っ直ぐな綺麗な瞳が私をじぃーと見ていて、心臓がぐるんと回った気がした。
「あの...。」
「...ご、ごめんっ。」
素早く瞬きをした彼が、慌てて私の手首を離す。
「あ、その、明日も、俺、ここで、泳ぐ、予定だから。だから、もし、キミが、よかったら、明日、いっしょに...。」
「あの...なんで、私の名前知ってるんですか?」
「...え?」
私の純粋な疑問に、彼は目を丸くする。
「私、きみって名前なんですけど、あなたは、なんで...。」
聞いている途中で、私は気付いてしまった。顔が熱くなるのを感じる。
「す、すみません。私の名前じゃなく...。」
「きみちゃん。」
心臓がドクンと鳴った。いつもにこりとかまどかとかくららとか、他にもいろんな人から呼ばれているはずなのに、彼が口にする響きは、なんだか特別なものに感じた。
「俺は、そうたって言います。『蒼い』に「太い」って書いて、蒼太。」
彼はそう言って、健康的な白い歯を見せて、ニカっと笑った。
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