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蒼太くんは大学生で、私よりも一つ歳上の二十一歳だった。だから敬語で話そうとしたけど、タメ口の方がいいって言うから、頑張ってタメ口にしようと思う。
大学生になってからの夏は毎年ここでボランティアで水泳を教えに来ているらしい。午前中だけだから、午後からは趣味で潜ってるそうだ。
「今日は、俺のおすすめの場所に案内したいんだ。」
なんとなく、昨日くららが言っていたえげつない想像のセリフに似ている彼の言葉と、キラキラと輝く彼の瞳がミスマッチ過ぎて、私は吹き出しそうなのを必死に堪えていた。
~
彼が案内してくれたのは、透明な海の中だった。海は好きで、よく来るけれど、潜るのは、初めてのことだ。
海は、不思議だ。
浜辺から見る海は青いのに、中に入ると青、というよりも透明に感じる。海の中にいる生き物の色によって、様々な色に見える海は、とても綺麗だ。
蒼太くんに借りたシュノーケリング用のゴーグルをつけてさらに深いところに潜っていくと、日の光の届きにくくなった海の中は、なんだか薄暗い。それでも、初めて見る少し深い海の中にも、懸命に生きる生き物たちがいて、自然と目を奪われる。
海の中に見入る私の視線の端に、指先がうつる。
目を向けると、そこには薄暗い海の中でも目を細めて笑ってるのがわかる蒼太くんが、私に向かって手を差し伸べていた。
その手をそっと取ると、蒼太くんの目元が、さらに垂れたのがわかった。
薄暗い海の中でも、彼の笑顔はなんだか、輝いて見えた。
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