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これって――夢じゃね?
起きたら、頭に大きなタンコブがあって。
仲間に「おまえ、あんなとこで落ちるなよ。負けたじゃねえか」とか文句言われたりする。そんな夢…。
「あ、夢じゃないから」
すっぱり否定された。というか、オレの頭の中の思考を勝手に読み取らないで欲しい。
いや、カミサマだとは聞いてるけどね。プライバシーの侵害ってヤツだと思うわけ。
「プライバシーとか、創造主に関係ないので」
またもや読まれた。
もういいや、言葉にしなくても会話できてるじゃん。大きく深呼吸して芝の上に寝転んだ。
突っ伏してもちくちくしない芝は、どこか非現実的だった。
「説明を続けるよ。500年程前にこちらの世界が荒れた時代に、対になってる世界から数人借りたことがある。その貸しを返せと言われました」
「誰に?」
「向こうのカミサマに」
そんなにカミサマっているんだ……へえ。人間って貸し借りする存在なのかぁ。
もう驚きも平坦になるほど、オレの許容量はいっぱい一杯。溢れてほとんど零れ落ちていた。
あちこちの世界のカミサマ同士で勝手に人を殺して交換しないで欲しい。
その後のカミサマの話を纏めると――
貸した借りを返すために、向こうのカミサマが望む条件を持った人間を選んでさくっと殺し、この場に呼び寄せたらしい。
つまりオレは、あのサバゲー会場で死んでいる。
世界大会で上位入賞してる実力があるくせに、弾避けて転げ落ちた先で頭を打ってザクロという、かなり情けない死に様を晒した……と。
「生き返るって選択肢は?」
「残念ながら、頭割れちゃってるから。戻ったらゾンビだよ?」
ああ、それは無理。
もう少し穏便な、そう寝てる間に息を引き取って起きなかった、みたいな自然死にしてくれたら良かったのに……。
恥ずかしさに芝の上を全力で転がる。
だって『いい年してサバゲーに夢中で、崖から転げ落ちて頭割れた』とか。
親が全力で否定して泣く案件だろう。間違いなく親族に死因を隠すレベルの恥さらしっぷり。
サバゲー仲間のトラウマになったらどうしてくれる?
「一応、君にチート能力も授けられますよ」
「チート能力……」
異世界転生とか、そういう小説はあまり読まないから詳しくないが……あれだろ? 最強の魔法使いだったり、騎士として優秀な能力を最初から持ってたり、あとめちゃくちゃ美形に生まれ変わったりする。
「近いですね。何か望みは?」
「えっと、魔法使いたい! あと王とか騎士、魔物なんかが存在する世界だったら最高」
小説は読まないが、映画はたくさん観てきた。
現代物やお涙頂戴は観なかったが、ホラーやスプラッタ、アクション、そして意外にハマったのがファンタジー!
魔法使い同士の戦いとか、竜を退治する話、不思議な異世界を冒険する指輪絡みのストーリーも好きだった。
魔法関係の話って、不思議と中世ヨーロッパみたいなイメージがある。レンガ造りの町並みや、騎士とか貴族がいて、洋服もフランス革命前ぐらいのふわふわした感じか。
思い浮かべて、ふと気付く。
あ、魔法使いの映画の最終編を観てない。あと1話で完結だったのに……。
「希望の映画を観せるのは無理ですが、魔法を使える設定は可能です。転生先の世界は王ではなく『皇帝』や『騎士』『魔術師』はいますね。あと世界観もだいたい合ってます。こちらでいう中世ヨーロッパに近い環境で、『魔物』や『獣人』なども存在しますから、ほぼ希望通りでは?」
異世界も悪くないでしょう?
子供がにこにこと誘惑を向けてくる。
黒髪の、どこにでもいそうな外見の少年は確かにカミサマなのだろう。
勝手に人の思考を読んだりするが、希望を叶えられる力はあるらしい。
寝転がっていた芝の上に座りなおし、目の前の子供に頭を下げた。
「あと美形でお願いします」
「……ああー、それは向こうの基準で美形にしておくから」
………向こうの基準?
こっちの美形と何か違うの? っていうか、一瞬躊躇わなかった?
じっと見つめる先で、少年は困ったように頬をかいた。その仕草がひどく人間くさくて、カミサマっぽさが急激に薄れていく。
「これって詐欺じゃ……」
「あ、お迎え来たから! それじゃあ元気でね!!」
体よく話を切り上げたカミサマはさっさと姿を消す。
伸ばした手は宙を掴み、芝の平原にぽつり取り残された。自分だけしかいない世界は、突然温度が下がった気がする。
ぶるりと身を震わせて肩を抱いた。
一瞬目を伏せて顔を上げたら
――そこは『戦場』でした。
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