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淀んだ雪雲の失せた今、砂金のようにちらばる星々と淡青の満月が夜半に飛ぶ鳥たちを見下ろしていた。
晴れ晴れしい濃紺と肌を刺す清涼な冷気のあわいに翼をはためかせて、揚々と飛行を続けていく。風の切る音に紛れながら、切ない響きを零すのは極々小さな啜り泣き。
「っ……、ぅ……っ」
飛翔装に包まれる少女が、その身を丸めて肩を小刻みに震わせていた。少女を胸内で抱くエマニュエルは目を丸くし、不思議そうに首を傾げた。
「どうしたの、白百合。お別れがそんなに辛かったの?」
リーンは一度小さく息を吸い込んでから、声を詰まらせつつも振り絞る。
「大好きだったから……ヨッカが。……メグも、プリムもジョシュアも、フラウベリーの皆も……」
極寒の冷気に晒されても眦から零れる雫は熱く、喘ぐような吐息と共にままならない昂りを押し出していく。
「でも、私の傍にいたらヨッカは命を削る。呪いも解けない。いつまでもガーランド家に縛られたままで、したいことも出来ず、自由になれない」
「じゃあこれで一安心だね。白百合の恩人は助かったし、しもべからは解放されたし、何もかも自由だ。全て白百合の願い通りだよ、本当に良かったね。……でも、どうして?」
エマニュエルは小首を傾げながら、優しく囁き続ける。
「どうして君は、そんなに泣いてるの?」
「……分からない。分かりたくなんか、ないの」
――凍えてしまえば良い、こんなわがままな涙など。
いつまでも泣き虫のままで、押し込めた心はこんなにも駄々を捏ねるばかりで。わがままをいくつも殺しても殺しても、悲鳴がたちどころに溢れて止まらない。
隣で翼をはためかせるピックスが、ぼそりと呟いた。
「お前さんは良くやった。……充分に立派な大人に見えたぜ」
「……うん、ありがとう」
大人になるのは、そう見せかけるのは、なんて難しいことなのだろう。
――聞こえないのか、リリ……!
信じられないように自分の名を叫び、顔を歪ませるヨークラインが瞼裏に浮かぶ。決してそんな顔をさせたい訳ではなかった。それでも欲しかったものがあった。得られたものがあるから、構わないのだ。この胸の留まらない絶叫と痛みは、当然の代償なのだ。
何もかもを取り払った幼顔で、少女は涙を零し続けた。
「ごめんなさい、ヨッカ……っ、本当に本当に――大好きだったわ」
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