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新天地
悩んだのも数日。いよいよ初出勤の日が訪れた。
美奈は慎吾の朝食をテーブルの上に用意し、家を出た。
久しぶりに腕を通したスーツも新鮮で、何だか気持ちが晴れていくのを感じた。あまりにも慎吾と二人の生活を窮屈に思っていたらしい自分に、チクリと胸に痛みを感じた。
電車に乗って新しい職場へと向かう。
どんな職場かはわからないが、なんだかうまくいくような気がしていた。
そう、ここまでは──……
「初めまして、進藤美奈です。結婚前も事務職に従事していました。みなさん、よろしくお願いします」
パチパチパチと乾いた拍手が美奈に送られる。
横に立っている社長はまだ若く、精悍な顔つきをしていて、美奈と同年代のように感じた。
他には男女が年令問わず十数人いるだけのゲーム制作会社だ。
「みんな、よろしく頼むよ。進藤さんはあちらの席で」と、社長の久保は美奈を誘導した。
席に着くと社長の久保も後ろについてきて「進藤さんっていくつだっけ?」と訊いてきたので「32歳です」と答えると、「俺36だよ。同年代だね。よろしく」と握手を求めて来たので、美奈はその手をすぐに握り返した。
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