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僕から少し離れたところで女は立ち止まった。
「もしかして、これ取りに来た?」
女は1冊のノートを僕に見せつけるかのように上に高くあげながらそう言った。嫌な予感が当たった。
「返せよ、それ僕のノートだろ!」
ひらりと躱される。
「意外だなぁ、西村くん、幽霊とか信じないって言ってたから、こういうの興味無いと思ってた。」
「おい、誰だか知らないけど早く返さないと本気で怒るぞ」
「"夏の精" 夏を運んでくる精霊。」
女は気にせず喋り続ける。
「西村くんって絵上手いんだね。これ夏の精?見たことあるの?」
"カチン"という音が頭の奥で聞こえた。
表紙に"国語"と書いたそのノートには僕の秘密が隠されている。親友にも教えたことのない自分だけの秘密だった。
"精霊"
僕はノートの後ろの方のページに好きな精霊を図鑑のようにして書いていた。全て自分の妄想で書いたものだ。
元々僕は幽霊、精霊、妖怪とかいう類のものに興味があった。だが、このことはこれまでもこの先も誰にも知られるつもりはなかった。
それが自分の柄でないことは分かっていたし、その事を誰かに知られるのが恥ずかしかったからだ。
それを今この女に知られてしまった。
僕は女から乱暴にノートを奪い取る。
女は尻もちをついた 。が、僕はそれを無視して扉の方へ向かう。
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