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「西村くん、早く私に謝らないと罰があたるよ。」
女が呟いた。
背後に不気味な気配を感じに思わず足を止め振り返る。暗闇に目が慣れたのか女の顔についていた影は無くなっていた。
「…伊藤 恵」
1年の頃同じクラスだった女だ。入学当初は、その綺麗な顔立ちのおかげで、多くの人が彼女の周りに集まった。だが、彼女のもつ不気味な性質に気がつくと皆、次第に彼女の周りから去っていった。
「痛っ!」
彼女について思い出していると、突然腹部に激痛が走り、僕はその場にうずくまる。
「あーあ、だから謝ってって言ったのに。これに懲りたらもう悪いことはしちゃだめだよ?いつでも赤眼様が見てるんだから。」
「…赤眼様?」
「うん!悪いことをした人に罰を与える精霊のこと!赤い眼をしてるから私が名前付けてあげたんだ。」
「お前、まだ僕のこと馬鹿にしてるの?」
腹痛が弱まったきたせいで僕はまた調子に乗ってしまった。
「精霊なんて実在しないんだよ。そんな事ばっか言ってるから君は友達が出来ないんだよ。」
「…嘘じゃないよ。いるよ?そこに。」
女は僕の後ろを指さしながら言った。
また頭の奥で"カチン"という音がした。
「そっか。なら今から僕がお前の事殴ったら赤眼様は僕に罰を与えるんだな?」
自然と口角が歪んだ。精霊なんているわけない。これまで色々調べてきた僕がそう言うのだから間違いない。
「西村くん。早く私に謝って。度の過ぎた暴力予告も罰の当たる対象だよ。」
嫌な笑みを含んだ声で女が言った。
「えっ?」
突然、後ろから殺気にも似た不気味な気配に背中を強く押され、バランスを崩した。
勢い止まらず、ひたいを机に強打する寸前に、女に襟を掴まれる。
「ほら、コレで信じたでしょ!」
女に強く体を引き寄せられ、目が合った。
今度はもう信じざるを得なかった。たしかに背中を押された感触が今も尚、残っている。
「…赤眼様。」
そう僕が呟くと同時に女がくしゃみをした。
唾液が顔につく。
「うわ、汚っ」
すると僕は突然強い目眩に襲われた。
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