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第八話 将に希望の光なり!
山裾に広がる森林が、赤みを帯び、肌を刺すような暑さは、彼方へと過ぎ去っていた。
「北の地は冬が早い、寒くなる前には辿り着くぞ」
あれから二月の時が過ぎ、北の大地、故郷にほど近い場所を目指すカイアルは、遠くの山にかかる灰色の雲を見つめ、忌々しいといった様子で呟く。
「遙かに遠い地なのですね、冬が近いのですか」
カイアルの横で空を見上げ、佳与利は尋ねる。
目を覚ますたびに将希を襲おうとする為、何度となく諫められ、時には佳与利に術で縛られ、挙げ句の果てに呆れた冷たい視線で蔑みのため息をつかれ、今ではすっかり大人しくなっていた。
「一月は早いな。雪が降る前には済ませないと、より一層の時間がかかることになる」
沙知絵が持ち帰った情報は、葵奈の母、葵華の居場所であった。
北の地である、雪深き祠の奥に幽閉されているという、罪深き龍人の女性を、清華家の遠縁であり、分家の藤宮家から得たのだ。
「まぁ、さっさといって、さっさと帰ってこようぜ、寒いのは嫌いなんだ」
藤宮家の家臣である、将希が持ち込み、開示した情報である。カイアルはかつて、その将希の下で、傭兵として雇われいた経歴があり、因縁の相手でもあるのだ。
「だったら来なければいい、あんたがいなくてもたどり着ける」
「つれないねぇ、俺が持ってきた情報だってのに」
カイアルは皮肉を口にし睨み付けるが、将希は肩をすくめるだけだった。
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