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第四話 失いしもの、得られしもの
同日、雅螺――
里山へと続く、山裾に連なる並木が、桜吹雪を生み出し、暖かくなりつつある季節を伝えている。
山中には雪が残るも、人里にはすでに、夏の兆しすら見え始めていた。
「雅螺は、木材産業が好調のようだな。やはり皇都へも運ばれているのか」
佳与利の祖父、真之丈は、桜散り急ぐ木々のなか、同年代の男と歩いている。終始和んだ雰囲気で、相手の男もなじみであるのが、話す口調からも見て取れた。
「皇都は最大の取引先だ。皇都無くして、この村は成り立たんよ。鶯藍のように、神術士専門の育成で、国から支援があるわけでは無いのでな」
「そうか……」
男はそう言うと、自虐的な笑みを浮かべる。近くにある石に腰を下ろすと、真之丈も同じように腰をおろす。
「しかし、なんだ。真之丈が雅螺へ来るなどめずらしいな、なにかあったのか」
「十日ほど前、佳与利が裳着を行うため、宗零山へ向かった。その際、賊に襲われたらしいのだ」
「まことか、怪我はなかったのか」
男は、真之丈の言葉に驚きを隠せぬという様子で、振り向き、見つめる。
「通りがかりの、方に助けて頂いたようで、無事であった。だが、神玉の作成には失敗したようじゃ」
「ふむ、それは大変じゃな。神玉作成の失敗は沽券に関わるからな、本家の血筋である佳与利とあっては立場も悪くなろう」
「んむ、儂もこればかりは擁護出来んゆえ、突き放したのじゃが、恩人の方に逆に諫められてしもうたわい。必死にやった者にたいし、その言いぐさは何だとな。たしかに自らの落ち度で失敗したわけでは無い故、その言い分はもっともじゃ」
真之丈は下を向きながら、自虐的な笑みをみせる。
「ほう、おぬしを言いくるめるとは、なかなかの者じゃのう」
「認めざるおえんかったわい。裳着の際に、佳与利はこちらにも立ち寄ったとは思うが、会ってはおらぬか」
目だけを横に向け、男を睨むかのように、刺すような視線をむける。
「そうか、会っておらぬな、声を掛けてくれれば宿を貸したのだがな」
「助けて頂いた方が、ここに佳与利を襲った者が居ると言っておられた」
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