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蒼く澄み切った晴天を、白き翼を広げ羽ばたく一人の青年が居た。
青年の眼下には、抜けるような青空のもと、見渡す限りの山々が連なり、自然豊かで静かな空間が広がっている。
ようやく暖かくなり始めたことで、所々にある残雪は少なくなり、春の兆しを伝えていた。
上空から臨む景色には、遙か遠くまで続く山裾が一望出来、ここが人里離れた場所であることを物語る。
「何者だ、貴様らは!」
静寂広がる空間を打ち破るかのように、張り上げる男の声が響いた。
細い荒れた山道を進む三十人ほどの一団が、賊とおぼしき者達に囲まれ、襲われているのが見える。
一団は、人気の少ない山奥には似つかわしくない立派な輿を有しており、いやがおうにも目立つ。
賊はそれを狙っていたことは明確であり、怯んだ一団に間髪いれず、襲いかかっていた。
輿の主であろうとおぼしき少年を、必死に身を挺して守ろうとする女性。
護衛達がその二人の前面に立ち守りを固めるも、戦いに不慣れなのか矢継ぎ早に襲いかかる賊達に翻弄され、押されている様子が青年の目に飛び込んできた。
「なんだ、ありゃ?」
端正な顔立ちで切れ長の目をした青年の肌は、少し日に焼けた薄い小麦色の肌であるも、艶のある綺麗なものである。
髪もさらりとした黒髪で、空で風を受け棚引く様子は、とても神秘的な雰囲気を醸し出していた。
翼を広げ宙を舞う青年の腕には、一人の小柄な娘が居る。娘には翼が無く空を飛ぶことが出来ないようで、青年に抱きかかえられるようにされていた。
「何者かを狙っての強襲、といった感じですね」
娘は一瞬まぶしそうに目を細めその様子を見つめると、怪訝な顔を見せ青年の耳元で囁くように話す。
娘の肌は透き通った白い肌で一見か弱くも見えるのだが、それを感じさせない強い意志をもった優しげな瞳と、艶のある唇がそれを否定していた。
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