第一話 遙《はる》かなさきの輝《かがや》きをもとめて

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 (あお)()み切った晴天を、白き翼を広げ羽ばたく一人の青年が居た。  青年の眼下には、抜けるような青空のもと、見渡す限りの山々が連なり、自然豊かで静かな空間が広がっている。  ようやく暖かくなり始めたことで、所々にある残雪は少なくなり、春の兆しを伝えていた。  上空から(のぞ)む景色には、遙か遠くまで続く山裾(やますそ)が一望出来、ここが人里離れた場所であることを物語る。 「何者だ、貴様らは!」  静寂(せいじゃく)広がる空間を打ち破るかのように、張り上げる男の声が響いた。  細い荒れた山道を進む三十人ほどの一団が、賊とおぼしき者達に囲まれ、襲われているのが見える。  一団は、人気の少ない山奥には似つかわしくない立派な輿(こし)を有しており、いやがおうにも目立つ。  賊はそれを狙っていたことは明確であり、(ひる)んだ一団に間髪いれず、襲いかかっていた。  輿の(あるじ)であろうとおぼしき少年を、必死に身を(てい)して守ろうとする女性。  護衛達がその二人の前面に立ち守りを固めるも、戦いに不慣れなのか矢継ぎ早に襲いかかる賊達に翻弄(ほんろう)され、押されている様子が青年の目に飛び込んできた。 「なんだ、ありゃ?」  端正(たんせい)な顔立ちで切れ長の目をした青年の肌は、少し日に焼けた薄い小麦色の肌であるも、艶のある綺麗なものである。  髪もさらりとした黒髪で、空で風を受け棚引く様子は、とても神秘的な雰囲気を醸し出していた。  翼を広げ宙を舞う青年の腕には、一人の小柄な娘が居る。娘には翼が無く空を飛ぶことが出来ないようで、青年に抱きかかえられるようにされていた。 「何者かを狙っての強襲、といった感じですね」  娘は一瞬まぶしそうに目を細めその様子を見つめると、怪訝な顔を見せ青年の耳元で(ささや)くように話す。  娘の肌は透き通った白い肌で一見か弱くも見えるのだが、それを感じさせない強い意志をもった優しげな瞳と、艶のある唇がそれを否定していた。
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