第一話 遙《はる》かなさきの輝《かがや》きをもとめて

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「そうか」  青年はふんと鼻を鳴らし、興味なさげに関係ないといった様子を見せると、その場を離れるように飛び立とうとする。が、それを制止するように顔をぎゅーとひねる娘が、深いため息をつく。 「助けましょう、どうせ私たち目的ないですよね」 「痛っ!わかったから、いちいち顔をつねるな!」  ため息をつき怪訝な顔をすると、木々の少ない開かれた場所へすっと降り立つ。  背に生える翼を音もなくしまい込むと、腰の辺りまである少し長い髪を、首の辺りで束ねていく。  不満げな表情を見せた青年は、そっと降ろした娘とは頭二つ分ほどの差があることから、背がかなり高いことが分かる。  一方、地に降り立った娘は、青年との背丈の差もあるが、華奢な体つきが一層小さく見せ、小柄であることが(うかが)えた。  娘は巫女風の衣装を身につけ、袖の無い白衣(はくえ)に、緋袴(ひはかま)。その上には何枚かを重ねた、袖の短めな五衣(いつつぎぬ)と呼ばれる衣装を着込む。  五衣は夏を彷彿させるように、内側から薄い白から青みのある色をはさみ、薄緑へと変わる(かさね)の色目により濃淡(のうたん)を表現し、上に羽織る唐衣(からぎぬ)と背に付けた()は、十二単風である。  しかしながら(すそ)が短く、ほぼ(そで)も無い事から、動きやすいようになっているのが分かった。  娘はくるりと青年に振り向くと、その衣をふわりと(ひるがえ)す。 「で、どっちを助けるんだ」 「言わなくてもわかりますよね。襲われてる方に、決まっています」  青年の言葉に、やれやれとため息をつく娘は、整った顔立ちに切れ長でありながらも、優しげな二重の瞳を軽く伏せる。  髪は膝下あたりまであるようで、それを青年と同じように首の辺りで束ねるようにすると、頭に生えていた鹿の角のようなものをすっと消す。  娘は額を覆い隠すように、(かか)げられた木製の額当てのようにも、冠のようにも見えるものを、頭につけている。  顔にかかる前髪をそっと掻き上げるその腕にも、同じような木で出来た肘近くまで覆い隠された、大きめの小手のような腕輪があった。  両腕を胸の前へと運びすっと瞳を閉じると、手を胸の前で祈るように指を組んだ。
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