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「くそ、このままでは……」
少年を中心に、守りを固めている一団は、戦いに不慣れであるようで、劣勢におちいりつつあった。
一方に森林広がる斜面があり、その対面側が渓谷広がる、山間の川になっている。
現在、一団が身を置くのは、切り開かれ少し広がりのある場所なのだが、進む先、退路、共に幅狭き道となっており、その両側を賊によって阻まれていた。
「大丈夫ですか、かなり押されているように見えますが」
少年を守るように、その前に立ちはだかった、側仕えとおぼしき女性は、腕に切り傷がありながらも、気にしている様子は無いが、状況に対し少し焦りの色を浮かべていた。
気丈に立ち振る舞いながらも、瞳は不安げな光をたたえ、うっすらとした細いながらもよく通る声で、そばにいた護衛の男に耳打ちする。
女性の髪は、首のあたりで、丈長をもちいて束ねられている。よく手入の行き届いた、髪のようで、視線を巡らすように、首をかるく傾けると、肩の辺りをするりと滑り落ち、光をうけて艶のある黒い髪が輝いた。
「残念ながら、退路も絶たれたかと」
「そう、ですか……」
護衛の言葉に、女性は落胆した表情を一瞬見せた。が、すぐに表情を改めると、後ろに控えていた、主と思わしき少年に笑みを見せる。
「遼輝さま。私が命に代えても、必ずやお守りいたします」
主へと振り返りながらそう言った、女性がその身にまとう衣装は、先ほどの小柄な娘とよく似ていながらも、こちらは袖が地に着かない程度にまで長い。質の良い生地であつらえられた衣であることからも、身分の高い者に、仕えているのであろうことが分かった。
白衣の内着に濃き色の袴を着け、上に着込む五つ衣は、紫の薄様と呼ばれる襲の色目が、美しく表現されていた。その上に羽織る上着は、白から薄い黒へと変化する、濃淡の狩衣風の衣である。
側仕えの女性が口にしたその言葉に、主である少年、遼輝は首を横に振り、手を自分の前に掲げると、その手に一尺半(四十五センチ)ほどの脇差をどこからともなく出現させる。
基本的に武具は、普段目につくような所には所持していない。武具やある程度の道具などは、空間神術と呼ばれる術で、こことは違う空間に納めてあり、必要とあれば直ぐに取り出すことが出来るのだ。
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