第一話 遙《はる》かなさきの輝《かがや》きをもとめて

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沙知絵(さちえ)、諦めるな、余も戦う。こんなところで朽ち果てるつもりなどない!」  遼輝(りょうき)は、側仕えの女性、沙知絵の言葉に気品に満ちた表情を見せると、強さを持ち合わせた瞳で、見つめ言葉を荒げる。  遼輝の衣は、沙知絵よりも質のよい、絹とおぼしき生地を使い、内着は白いながらも光沢のあるものである。  沙知絵と同じように狩衣風の上着であるも、男性の遼輝には五衣が無いため、構造は少しちがう。  色目は淡いながらも、深みのある紫の衣で、袖口と裾には幾重にも見える、濃淡(のうたん)が表現されている。袴は濃い紫の物で、多少は動きやすいように、足首より少し上までに調整されていた。 「そなたらの目的は、余であろう!相手になる、かかってくるがよい!」  対峙する賊の前へと、沙知絵の横から躍り出ると、刀を構えた。そして、襲ってきた賊とおぼしき相手に対峙すると、声を張り上げる。  遼輝の構えは、基本こそできているも、とても様になっているとは言いがたく、刀を持つ手が少し震え、不安げな感じが見てとれた。 「よう坊主、よく耐えたな」  突如としてかけられた声に、遼輝はおろか、その場にいた人々全員がざわついた。  つい先ほどまで、だれも気づくことなく、気配すら感じさせなかった青年が、いつの間にか遼輝の横に立ち、頭を軽くぽんぽんと叩く。 「な、なんだ、貴様は!」  それに動揺し、荒げた声を上げたのは、直ぐ目の前に対峙していた、賊であった。  突然現れた青年に、皆一同に動揺し、騒然(そうぜん)となる中、その賊は、怒声をあげたと思った次の瞬間、その場に崩れ落ちる。 「な、何?!」  青年から、何歩も離れていたにもかかわらず、一瞬にしてその距離を詰めると、目にもとまらぬ早さで、賊の左上から右下にかけて、刀を一降り、何食わぬ顔でやってのけたのだ。  そこにいる者達は、誰一人としてそれを、とらえられた者はいなかった。しかも、移動する前には何も手にはしておらず、移動と同時に空間から刀を取り出していたのである。
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