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「余裕だねぇ、のんびり話していると死ぬぜ。それとも――」
遼輝の後ろに控えていた沙知絵は、青年の言葉を耳にした瞬間、自分の横を、風が通り過ぎていくのを感じていた。それは一瞬の出来事で、先ほどまで目の前にいたはずの青年が、すでに後ろにいたことに、次の瞬間気づく。
沙知絵が気配を追うように振り返ると、自分を狙っていた二人の男がいたことを知るに至るも、それを目にした時にはすでに、倒れ伏していた。
「ただの死にたがりか?」
不敵な笑みを、その場にいる賊達に向けると、賊達は一斉にたじろぐ様子を見せ、どよめきながらお互い顔を見合わせると、蜘蛛の子を散らすように散っていく。
「あらら、逃げちゃうの。さっきまでの威勢はどうした?」
どうでもいいといった様子で、興味なさげにその様子を青年は見送った。
「捕まえてください、依頼主を知りたいので!」
散っていく族の姿を見た沙知絵が、遼輝の後ろから身を乗り出し、逃げていく男達に向かって声を張り上げる。
青年は、その声に振り向くと、すっとそこへ歩み寄る。
「賊なんてどうでもいい。俺と一緒に一晩どうだ」
一瞬にして、自分の体を抱き留められた沙知絵は、驚いた様子で目を瞬いたが、直ぐに我にかえる。
「お、お願いです、賊を!」
賊を追いかけようと、身を乗り出そうとするも、蒼獅にしっかりと体を押さえつけられ、動くことが出来ない。賊達が散っていくと思ったその瞬間、目の前にいた一人の賊の体が、蛇のようにうねり、渦巻く水の流れに巻き込まれた。
「うが、ぐごぉ、ぐあぁぁ――」
賊はしばらく自分を取り込んだ、水のうねりの中で、もがき必死に空気を求めていたが、いつしか意識を失い、動きを止める。
「蒼獅様、わざと賊を逃すのは、やめてください」
ゆったりとした動きで、小柄な娘が現れると青年、蒼獅に向かって、不快そうに声をかける。
「はんっ、俺は人の指図は受けねぇんだよ。やれと言われると、やりたくなくなる。だいいち賊になど興味がない」
そう言って沙知絵を解き放つと、現れた娘の前へと歩み寄る。
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