第一話 遙《はる》かなさきの輝《かがや》きをもとめて

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「でも、私の言葉はきいてくださいましたよね」  不満そうに言い放つ蒼獅(そうし)に、娘は微笑み、言葉をつづると、それに苛立ちを見せた蒼獅は、手に持っていた刀を、娘へと投げ捨てる。 「うわぁ、と、とっ!刀を投げないでください、危なひへふ!」  一瞬それに手を伸ばした、娘であったが刃先が、その手に向いたため青ざめた顔で、手を引っ込めると、水を生みだしてそれをそっと絡め取る。同時に文句の言葉を青年に告げたのだが、途中で頬をがっちりとつかまれると、そのままひっぱられた。 「一言多い。刀に血が付いた、綺麗にしろ、葵奈(あおな)」 「やへへくははい、いはいへふ!(やめてください、痛いです!)」  涙目になりながら、抗議の目を向けた娘、葵奈は、その瞬間蒼獅に思いっきり、頬をひっぱられて離される。 「ひ、ひゃう!」  思い切り引っ張られたことで、手を離された痛みに、声にならない悲鳴を上げると、真っ赤になった頬を涙目になりながらさする。 「後ですよ、怪我人の手当てが先です」  頬の痛みをこらえながら、はぁとため息をつくと、衣服の裾をなびかせるように、くるりと振り返り、沙知絵(さちえ)のもとに歩み寄り、その体にそっと触れる。 「あなた方は……、それにこの力……」 「通りすがりの巫女ですよ。水の癒しが得意なのです」  触れた手から、水の煌めきで、腕に出来た傷を覆い隠すと、沙知絵の傷が癒えていく。 「水の癒しは、龍人族の方が得意と聞きます。あなたは龍人なのですか」 「お詳しいのですね。隠しているわけではないのですが、知られると不都合もあるので……」  沙知絵の言葉に、一瞬驚いたような顔をした葵奈は、軽く目を瞑りながら、息を吐くように言葉を返す。  葵奈は、自らの頭部に隠していた角を、答えの代わりに出現させながら、語尾を弱めるようにつづり、話終わると同時に再びそれを見えないように、視界から消した。 「主である。遼輝(りょうき)様は皇族(おうぞく)で、それに仕える我々も龍人族とは、少なからず縁がありますゆえ」 「そうですか、皇族の方でしたか……」  淡々と話す沙知絵の言葉を耳にし、表情に影を落とした葵奈は、視線を下にむけると、声質が重くなっていた。  そんな葵奈の様子に、沙知絵は小首をかしげながら、思案するように顎に手を添えていた。 image=511796166.jpg
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