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刃渡り2メートルはある直剣を軽々薙ぎ、紫電一閃、虚空に血の虹を架ける。周辺の大気を茶色くけぶらせる粉塵を洗い清め、新たな穢れで塗りつぶす。
視界を一瞬染めたそれは、迸る雷光が如し。
落雷と同時に、空中で飛散した液体が、勢いよく私の装甲にかかる音がした。ばしゃり――私の些か鋭敏すぎる聴覚センサーはそれを端々まで捉え、波形まで分析する。
剣身の表面が、囁くように振動し始める。
彼方此方にこびり付いた、血糊をつなぎにした脂や肉片がみるみるうちに剣先に吸い寄せられ、ぼとりと滴り落ちた。私の主成分たる、柔と剛を備えた新世代型のバイオメタルは、人間の分泌するものを蛇蝎の如く嫌い、完璧に弾いてしまう。だから、幾ら血肉を斬り飛ばそうが、決して汚れることはない。
だが、私の真紅の巨躯は、鮮血に塗れているように見えるだろう。
今し方斬り飛ばした頸部の向こうから、新たに兵が飛び出してきた。
総数は5人だ。私の網膜にはあたかも、土煙と血風に澱みきった大気の檻をぶち破って、突然現れた猛獣のように認識された。憎悪か功名心か、強烈な感情に双眸を爛々とさせ、吶喊、一直線に向かってくる。
サーモメーターはともかくとして、精神波すらも仮想パネルに表示されていなかった。敵軍はそれを隠蔽するなり改竄するなり技術を導入してきたということだろう。私の力場に呑み込まれていないのも納得できる。
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