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私は“眠り姫”と呼ばれている。
但し、眠るのは私ではない。
私の半径20メートル以内に接近した、精神活動を行う生物は全て、強制的にその精神――魂という者もある――が剥離する力場の中で、生ける屍と化さない者はない。
物質世界よりも色味の強い精神の世界を、指先すら動かすことままならず浮遊する合間に、その器たる肉体を、文字通り完膚無きまでに破壊されるのだ。
しかし、敵も優秀な頭脳を擁している。眠りに対して無抵抗に思われたのは、極短期間でしかなかったという訳だ。
あくまで、眠りに対してはーー
私は彼らのなりを一瞬だけ視界に捉えた。極限まで軽量化された黒いウェットスーツに類似した形状の防具で首の付け根まで隙間なく覆い、全員銃剣を携行している。
そのうちの一人――茶髪の二十代に差し掛かったばかりと推定される男が、雄叫びと共に剣閃を放ってきた。
――馬鹿な真似はやめろ。
私の無声の警告とは裏腹に、真紅の躯はプログラムに従い、周辺から敵対分子を一人残さず消し去るための最善行動を取っていた。
右腕の幅広の剣で軽く刺突を受ける。血に濡れた色のバイオメタルは剣先が0.12ナノメートル触れるなり半液状化を開始、対象物を包み込んで内部機構への衝撃をゼロにした。コンマ1秒の誤差で、左腕から高密度に収束されたエネルギーの眩光を放つ。
大気が震撼し、莫大な熱量が炸裂した。
断末魔さえも焼き切れて、聴覚に達しない。
馬鹿な真似はやめろ――
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