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精神波を発生させる存在を的確に識別して最適行動で屠るべく設計されたプログラム、周囲の敵を殲滅し終えたあと、率先して敵を探す自律性を持たされたコア、そして活動態に附着する精神を引き剥がす力。
それらの狭間に、生まれたまぼろし、有機的異常、バグ。
落ち葉が静謐な水面にさざめかせる波のように、接触不可能な、実態のない概念……。
機械の躯にそうした性質のものが生じたということを、信じる科学者はいるだろうか。信じたとして、それを示せる術はない。
ただ思考は内的に成されるばかりで、虚無の大海の波間を、無為に漂っているだけだから……。
ぐにゃり、と視界が歪んだ。
どろり、と世界が溶けた。
粘稠で、半透明な液体に世界の全てが満たされていて。
私は万物をその溶媒を通してでしか見ていなくて。
溶媒が緩慢な動作で攪拌されて、私という主体を無理矢理、粘りの向こうへ押し流して――
私は立っていた。
斜陽は遥か西にかしぎ、静かな終焉を予感させる光で周辺を満たしていた。
渇いた大地は、母なる己に還らんとする骸の血を、ひび割れから貪欲に吸っている。そのように見えた。
鮮血の色をした私は、骸の山に立っていた。
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