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「さあ、わが朱雀妃よ。おいで」
そう言うなり、朱雀帝は自分の美しい馬の上へ紅仁を引き上げた。
「ええっ!」
「黒よ、その子」
「何で連れていかれるんだ!」
「殺さないのか?」
物騒な言葉の混じった人々の騒めきに、朱雀帝が一瞥をくれると、皆押し黙った。
そしてそのまま黙って馬を走らせた。
紅仁はこのとき気づくべきであったのに気づかなかった。
人々だけでなく、朱雀帝の側近は紅仁を背後から冷たい眼で紅仁を睨んでいた。それは星黎だけでなく、いつも微笑みを絶やさない明翔も同じであった。
そして紅仁を優しく抱きかかえ、馬を走らせている朱雀帝自身もそうであった。彼は側近とは違い、睨みはしていなかったが、目は決して笑っていなかった。紅仁を見つめる瞳の奥は、氷よりも冷ややかなものがうつしだされていた。
向かい風が紅仁の髪を揺らす。走り回った挙句、井戸から落ちたため、もう紅仁の髪型は原型をとどめておらず、紅仁は諦めて簪を外して髪を解き放った。そして自分の方へやってきた紅仁の髪を朱雀帝は苦虫を噛み潰したようような顔で見つめた。
紅仁はまだ知らない。自分に起きた異変に。
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