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「…どうした?」
あまりにきょろきょろ視線を動かす紅仁に朱雀帝は訊ねた。
「ここは…日本じゃないんですね?」
人々の着る服は和服でも洋装でもなければ、ジーンズやTシャツといったラフな格好でもない。だがその装いは、たった数回しか開かなかった国語の便覧に載ってたのを紅仁は思い出した。そう、漢服だ。
そして城壁のデザインは日本のものではないし、その広々と横にずっと続く様や延々とした空は日本ではあり得なかった。
「ここは朱陽国だ」
淡々と朱雀帝は言った。
-そんな国、知らない。
紅仁は不満げに思った。しかしすぐに1つ閃いた。
「…古代中国の1つかしら?」
タイムスリップしたとなると、それはそれで信じられないが、まだそれならこの光景に説明はつく。
「ここは朱陽国」
朱雀帝は繰り返した。
-訳がわからない。
紅仁が困り果てたとき、背後から声がかかった。
「あとで私がお教えさせていただきます。よろしいでしょうか、殿下?」
落ち着いたその声は星黎のものだった。星黎は馬上にもかかわらず、手綱を手放し、手の甲を重ねて組み、その上に額を乗せて少しうつむき、主の言葉を待った。
「よろしく頼む」
「はっ!」
星黎はかしこまってまた一礼した。
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