2、 黒朱雀

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そもそも朱雀妃がいて、こんなことになるなど有り得なかった。そこで王たちはようやく憐れな娘に対して疑いの目を向けるようになった。 そして王たちはやっと真実を知ることとなった。朱雀妃となるべき娘は朱陽国にたどり着く前に妖魔に殺されてしまったということを。そう、その妖こそが現在妃の椅子に座っているものだった。 王は長い戦いと多くの犠牲の上、妖魔を殺した。そして無事災いを止めたが、国が元通りになるのは次の本当の朱雀妃が来た数百年後だったという。 それ以来これを教訓として、偽の朱雀妃、王妃の資格を持たない朱雀妃を黒朱雀と言い、災いがもたらされる前に王直々に殺すことが定められている。 「だからこれから余は、貴女に手を下す」 朱雀帝は静かに、だがまるで何でもないかのように宣言した。 「待って!」 「待たぬ。何、最期の悪あがきでもするのか?」 朱雀帝は冷笑した。 「ち、違っ…」 「もう、よい。どちらにせよ、相手の名と体の一部は手に入ったのだからな」 そう言いながら、朱雀帝は右手を挙げた。彼の手には長い髪の毛が握られていた。紅仁の髪だ。大方抱きしめたときに盗ったのだろう。
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