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「ふっ」
短い笑い声をあげ、朱雀帝は紅仁に侮蔑の目を向けた。
そして懐から本と紙、筆を取り出し、何やら作業をし終えると、急にぶつぶつ何かを唱え始めた。何を呟いているのかは、紅仁の耳では聞き取れなかった。だが非常にまずい事態なのは肌でひしひしと感じていた。朱雀帝は険しい顔で術をずっとかけ続け、その様子を紅仁は禍々しいと思った。
それからどのくらいの時間が経っただろう。おそらく半刻も過ぎてはいないのだが、紅仁には2日も3日も経ったように感じた。そして時間が過ぎるにつれて、次第に朱雀帝の顔に焦りが浮かぶのが見て取れた。額には大粒の汗が浮かんでいた。
ー何でこの人の方が、殺されそうな私より顔色が悪いの?
そう紅仁が疑問に思ったとき、朱雀帝は唐突に術をやめ、黙った。
そして怒り顔を紅仁に向けて言った。
「なぜ、死なぬのだ!」
「…えっ?」
紅仁の体調に全く変化はなかった。なぜ死なないのかと聞かれても答えに困るものである。
「大昔、黒朱雀を封じ殺めた術が何故、効かぬ…?侍女や荷物のない天といい、髪色といい、初代黒朱雀と全く同じなのに…」
「…えっ?」
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