757人が本棚に入れています
本棚に追加
/518ページ
きらびやかやな朱や紅の刺繍が為された絨毯や布団。扉に為された細かな螺鈿。鮮やかに生けられた花々。
聖拝宮に連れていかれる前と一寸も変わらぬ豪華な部屋だったが、紅仁にはどことなく悲しく、寂しく感じた。
「はははっ!」
突然紅仁は笑い出した。普段の紅仁からは考えられない笑い方だった。上品という言葉には欠け、ただただ乾いた笑い声が虚しく部屋に響き渡った。
-結局、誰1人私を必要とはしてないんだ。
両親に捨てられ、学校では虐められ、育ての親には見ず知らずの相手に嫁に出された。そうして自分のことを向かい入れてくれた相手は、早速紅仁のことを殺そうとした。
ーいや、たった1人だけいたか。
紅仁はその存在を思い出して、そっと服の上からペンダントに手をあてた。だがこの世界に来てしまったには、もう2度と会うことはないだろう。
紅仁は悲しげにそっと微笑みながら、髪に手を伸ばした。そして1本の簪を抜いた。それは幻夢鳥花が繊細かつ豪華にあしらわれたものであったが、紅仁はその金の簪の美しさに目を向けることはなかった。
紅仁は惨めさとストレスで自暴自棄になっていた。
紅仁は簪の尖った先を喉にあてた。白い肌に少しずつ少しずつ食い込んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!