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ガシャンッ。
突如部屋の入り口から何かが割れる音がした。
「な、何をしていらっしゃるのですか!」
泉花は悲鳴に近い声を出して、紅仁の方へ走り寄った。そして簪を奪い取った。
紅仁の喉はうっすらと血がにじんでいた。
「何をなさっているんですか!」
泉花はもう1度大声で叫んだ。
紅仁はゆっくりと泉花へ顔を向けた。紅仁の虚ろな瞳が泉花を写した。
泉花は紅仁を見て、ひっそりと息を飲んだ。
-やはり、聖拝宮で何かあったんだわ。
紅仁の様子は先程までとあまりに違っていた。婚儀の前も、あまり楽しそうではなかったが、まだ顔に表情が浮かんでいた。戸惑いと微かな期待が感じられた。だが今の紅仁からは絶望と虚ろな雰囲気、今にも風が吹いたらそこまま命の灯火が消えてしまうような、そんな危うさしか感じられなかった。
-きっと、黒朱雀だと殺められかけたのでしょう。
後宮に10年ほど勤める泉花は、やはり察しは早かった。
-きっと術が効かなかったということは、妖魔ではなくて、失格の朱雀妃だったということかしら
紅仁が一言も発せずとも、正否はともかく泉花はここまで1人で推測してしまった。
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