2、 黒朱雀

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だが、だから泉花も紅仁の敵にまわるかというと、そうではなかった。 昨年先帝が崩御されるまでは後宮で見習いとして働いていたが、今の御代になってからはその功績が称えられ妃の侍女へなった。だが泉花は誰かに仕えたことはなかった。 通常後宮には幾人もの妃が暮らしている。皇后の座をを廻る卑劣な争いもあるが、泉花はそのきらびやかな空気にずっと憧れてきた。また通常後宮の侍女はそこそこ高い位の者と教養と財力の持つものしかなれず、位は高く、教養も十分だが、家計は急迫していた泉花には夢のまた夢だった。だからこそ侍女となった際は心から喜んだ。 だが先程言ったように、泉花は紅仁が来るまで誰かに仕えたことはなかった。それは朱雀帝が様々な名家から娘を娶るように迫られたのを、何度も突っぱねたからであった。だから紅仁は今の朱雀帝にとっては初めての妻であった。 泉花は待ちに待った、後宮の主、自分の仕える相手を失いたくなかった。 泉花は思わず、今にも消えてしまいそうな紅仁を強く抱き締めた。 パサリッ。 簪を抜いたせいか、髪がほどけ、地に向けてどんどんと広がっていった。
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