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「…な、何これ?」
低く、震える声で紅仁が呟いた。
「あ、し、失礼致しました!つ、つい…」
泉花は赤面しながらごにょごにょと小声で言い訳をいい、紅仁から離れた。そしてそっと紅仁の顔色を伺った。
-ご気分、悪くされたかしら…?
泉花は不安に思ったが、実際はそんなことはなかった。紅仁の瞳に泉花は写っていなかった。
紅仁は自分の身に起きた変化にようやく気がついたのだ。
深紅の髪は知らぬ間に漆黒の、濡烏の色に変わっていた。
光の加減かと思って、紅仁は髪を手に取り、斜めに傾けたり、左右上下に動かしたりしてみたが、色は全く変わらなかった。
「ど、どうかなさいましたか?」
心なしか不安げな泉花の声色。
「か、髪が…」
「…?」
「黒いの… 私の髪、嫌味なくらい赤かったのに…」
紅仁はずっと黒髪に憧れてきて、実際自分の髪は黒くなったのだが、正直嬉しいとは言い難かった。
突然黒くなるなんて気味が悪いし、何だか寂しい気もした。なんだかんだ紅仁を苦しめてきたあの真紅の髪も紅仁の一部なのだ。
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