3、  後宮

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「とっても素敵ね…」 紅仁は感嘆のため息をつきながら言った。 下の衣は金春色(こんはるいろ)、上の衣は白藍が基調となっていて、天色(あまいろ)で縁取られた襟や裾は細やかな幻夢鳥花の刺繍がなされていた。また袖には2羽寄り添って飛ぶ朱雀がいた。 恐らくこの朱雀は朱雀帝と朱雀妃を表しているのであろう。紅仁はそんな考えに行き着いて、胸が痛むのを感じた。 「では只今、こちらにあわせる髪飾りをご用意致します」 恭しく言う泉花に、思わず紅仁は声をかけた。 「ごめんなさい、いつも… 貴女も忙しいでしょう?私のことなんか構わないで、ほかの仕事に専念し」 「またそんなこと、おっしゃらないでください」 泉花は紅仁の言葉を途中で遮り、少しむくれながら言った。 だが泉花は紅仁がどうしてもそう言ってしまう訳に心当たりがあった。 泉花はようやく現れた後宮の主を自分の主と認め、一心に仕えているが、そうではない人物もいるのだ。 その代表的な例が、泉花と同じく紅仁の侍女となった湖音だった。 彼女は紅仁が黒朱雀、失格の朱雀妃だということを知ると急に手のひらを翻した。泉花と違って後宮に来てまだ日の浅い湖音は、主のいるありがたみがわからず、失格の朱雀妃が自分の主だと受け入れることができなかったのだ。結局彼女は元いたところへ戻ってしまった。
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